第6話はこちら。
目指す札幌・道新ホールまでは非常にタイトな移動スケジュール。
独演会の時間に間に合うのか、まずは飛行機のスムーズな離陸にかかっている。頼むぞ~。
しかして離陸直前、その時間その場所で急速に雨雲が発達し、狙いすましたかのように豪雨に見舞われた。
あまりの雨足の強さに、飛行機はしばらくその場で待機。
え?た、待機…?
どぼぢで~(இдஇ )
いきなり出鼻をくじかれたではないか…
スムーズな乗り継ぎが大事と、あれほど…
くそっ!大気の状態!お前はすーぐ不安定になるな!大気だけに待機させますってやかましいわ!アトモスフィア!
おい機長!神田伯山が待っているんだ!なんでもいいから今すぐに離陸してくれよ!いや、やっぱ危ないから雨やんでからでいいや!
雨、おめーだよ!早くやまないとビンタするからな!
するとビンタにびびったのか、雨が少し小降りになった。
今だ、機長!飛ぶんだよ!!
結局、飛行機は10分ほど遅れて離陸した。言わずもがな、致命的なロスである。
新千歳空港にも定刻より遅れて到着したため、狙っていた14時06分の電車には乗れなかった…。
なんとか次の14時18分の電車に飛び乗る。どんなに気持ちが急いても、電車の速度は一定なのがもどかしい。
心中そわそわしっぱなし。ラムちゃんがいたら確実に「あんまりそわそわしないで」案件だ。
札幌駅に着いたのは14時57分だった。
この時点で、開演まであと3分。
絶望的やん。
しかし独演会と言えども前座の一人くらいはいるはず。神田伯山には間に合うかもしれない。
望みは捨てず、電車のドアが開くと同時に飛び出す。ホームの階段を駆けおりる。
横には俺と同じくらいダッシュしている老夫婦がいた。年齢を感じさせないスピード、さてはすばやさのたねを食べているに違いない。
それにしてもそんなに急いでどこへ……あっ、もしかしてあなた達も神田伯山ですか…?
そう思ったのも束の間、老夫婦は階段をおりるとそのままの勢いで別のホームへの階段を上ってどっかいった。
単に電車の乗り継ぎがギリギリで急いでいたようだ。元気そうでよし。孫も安心だろう。
おっと老夫婦の心配をしている場合ではない。
1分1秒が惜しいが、さすがに4日分の荷物が入ったスーツケースは邪魔なので駅のコインロッカーに預けた。
日ごろ鍛えた健脚、いまこそ発揮すべきとき。人と人との隙間を縫って地下歩行空間を全力疾走する。
このとき飛ぶように進む影を見て、栽培マンか何かかと間違えた方もいたかもしれないが、俺の戦闘力は1200もない。
札幌駅から道新ホールまでは徒歩12分らしいが、ノンストップ全力疾走で5分もかからずに着くことがわかった。
15時05分、息も絶え絶えで到着。
受付を済ませて入口へ向かうと…
信じられないことに、そこにはなんと…
扉に耳を当てて会場内の様子を探る神田伯山のお姿が…!!
おい!
目の前に伯山やん!!
伯山 イン フロント オブ ミーやん!!!
信じられない思いで興奮しながら近づくと、神田伯山もそっと扉を離れて関係者通路へ戻っていった。
いやー目の前で生伯山を見られるなんて、遅れていって逆に良かったかもしれんね。
それに、そこに神田伯山がいらっしゃるということは、まだ彼の講談は始まっていないということ。
席についてみると、誰か知らない人が開口一番をやっているところだった。
間に合ってよかった~。
その知らない講談師が20分くらいやってくれて、そのあとは真打・伯山先生のお出ましだ。ばくざん先生じゃないよ、伯山先生ね。爆弾発言はしない。
会場内は大きな拍手に包まれる。
よっ!待ってました!
つってね。
いや実際に言うわけはないんだけどね。
講談見るの初めてだし。
その初めて見る講談、どんなもんかいと思ったけど、あっっっという間に引き込まれたよね。
俺だけじゃない、会場全体が前のめり。
「扇の的」「四谷怪談」「大名花屋」をやってくれたんだけど、笑いあり涙ありでとても充実した時間だった。ずっと聞いていたいと思った。
本当にね、こんな素人も一発で夢中にさせてしまうなんてね、他の誰かと比べたわけじゃないんだけど、彼は天才だと思う。
全員一度は聞いた方がいい。圧倒的に面白いぜ。
こんな良質なエンターテイメント、チケット代3,800円というのが信じられないな。
感動しすぎて、勢いで会場に売られていたサイン本まで買った。
帯には神田伯山の写真。当然、彼の著によるものだろうとよく見ないで買ったが、帰りの飛行機で取り出してみると著者は思いっきり二代目・神田山陽だった。
誰だよ!!!(失礼)
俺が知らないだけで、神田伯山の師匠であるからには偉大な人物なのだろう。
幸せな気持ちに包まれながら道新ホールを後にした。
次でいよいよ最終回!
第8話へつづく