舟を編む

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舟を編む/光文社

2009年の本屋大賞に輝いた作品。
個人的に、数ある賞の中でも本屋大賞にノミネートされる作品は面白いものが多いと思います。

ある出版社の辞書編集部を舞台に、新しい辞書を一から作りあげていく様子を描いた物語。
まず興味深いのは辞書ができ上がっていく過程。
大変だろうなとぼんやり想像することはできても、具体的な作業工程については今まで知る機会がなかったので面白かった。

完成までの道のりはとても険しく、辞書編纂メンバーの前にはいくつもの困難と試練が待ち構えています。
それらを乗り越えるのに必要とされるもの。
細かい作業を厭わない根気、つまづいても投げ出さない粘り強さ、信頼できる仲間、そして何より言葉への情熱。

膨大な時間をかけた末に、とうとう辞書が完成したときの感動がしっかりと読み手にも伝わります。日本語が好きという方はぜひ読んでみてください。

この小説の魅力はそれだけではない。登場人物達がみんないい。みんな違ってみんないい。

主人公の馬締(まじめ)は名前の通りどこまでも真っ直ぐな男。
一見冴えない人生に見えるんだけど、その人柄からみんなに愛されて、好きな仕事に一生を捧げることができて、お互いを尊敬し合える伴侶に出会えて…
人生に「成功」というものがあるとしたら、きっとこういう人にこそ当てはまる言葉だろう。

俺が一番好きなのは西岡という男。
辞書作りには興味が無いチャラ男かと思いきや、やるときはしっかりやる。
彼の持ち味を出して彼にしかできない渉外をやってのけたり、女にだらしないと思わせといて最後は一人の女性を幸せにしたり。
訳あって辞書編集部を去るときもきっちりと功績を残し、その後もひっそりとサポートし続ける。
馬締がそんな西岡に対して放った素直な言葉に感動です。
映画ではオダギリジョーが演じているはず。観てみたいなぁ。

辞書と言えば、新明解国語辞典をご存知ですか。
ずっと昔から言われてきたので有名かもしれませんが、この辞書は語釈がとてもユニークという点で他の辞書と一線を画する存在です。

本来公平であるべき辞書の語釈ですが、新明解のそれには編集者の心情や独特の解釈が多分に含まれています。
まるで辞書自身が人格を持っているように感じられ、ファンからは「新解さん」と呼ばれるほどです。

ネットでも新解さんの魅力を徹底的に分析したサイトがありますし、『新解さんの謎』という本も出版されております。

上記サイトから一部引用して紹介すると、

(引用ここから)

れんあい【恋愛】 
 特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態 (第4版)

がったい【合体】
 ①起源・由来の違うものが新しい理念の下に一体となって何かを運営すること。
 ②「性交」の、この辞書でのえんきょく表現。(第4版)

(引用ここまで)

こんな具合です。これは新解さんの魅力のほんの一部です。
と偉そうに言っている俺ですが、辞書は持っていません。今度本屋さんで新解さん買ってきます。
そして男子中学生の如く、卑猥な単語を片っ端から調べて丸をつけるという、世界で最もどうでもいい作業に没頭するのだ。

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