小さい頃の自分と、親になった自分と

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いまから約30年前、小学校低学年の少年のお話。


あるとき、少年は母親からおつかいを頼まれました。
家から500メートルほど離れた商店の自動販売機で、タバコを買ってくるというものです。

預かった500円玉を握りしめて歩いていたところ、向こうから近所に住んでいる大介くんがやってくるのが見えました。

「今日はあのマンガの発売日だから買ってきたところ。おまえもこれから買いに行くのか?」

そう言って大介くんは買ったばかりのコミックスを見せてくれました。
表紙の右にはフリーザの第3形態、左にはスーパーサイヤ人になった悟空が描かれています。

タイトルは『伝説の超サイヤ人』

ドラゴンボールの27巻でした。

少年は父親が買ってくるジャンプを毎週読んでいたため、コミックスに描かれているであろうフリーザ戦の結末をすでに知っていました。
それに、それまでドラゴンボールのコミックスを集めたりもしていません。

少年にとってドラゴンボール27巻はまったく不要なはずでした。

しかし大介くんに見せられたそれは、少年の目にはとんでもなく貴重なもののように映ったのです。

ーぼくも、どうしてもほしい

いったんそう思いだすと矢も楯もたまりません。
目的の商店よりも手前にある別の店に入り、母親から預かったお金で27巻を購入しました。

そのときの少年の頭は、ただ27巻を手に入れたいという真っすぐな思いで満たされており、後先のことなどは微塵も考えておりませんでした。

しかし現実はどうでしょう。当時のコミックスは390円。500円で会計すると110円しか残りません。
そこで少年はやっと気づいたのです。

ーおかねがたりない…

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これまでのおつかいの経験から、タバコ1箱が220円することは知っていました。

ーなんとかしなきゃ…

少年はバレずに済ませる方法はないか、考えを巡らせました。

自分のお金でタバコを買うしかない。
そう思い至った少年はいったん家に帰り、おこづかいをためた自分の財布を持ち出します。

「あれ?タバコは?」

母親には当然そう声をかけられましたが、

「うん、ちょっとまだかってないんだ」

何とかごまかして家を飛び出し、全速力で自動販売機へ向かいます。

お釣りの110円と自分の財布から出した110円を足してタバコを購入し、母親に渡しました。

ーよかった、これでバレずにすんだ

ひと安心した少年に母親は聞きました。

「お釣りは?」

マンガを買った事実を隠すことに夢中で、お釣りのことなど少年の頭から抜けていたのです。

もうごまかしきれないと悟った少年は泣き出し、母親に本当のことを話しました。


お気づきのことと思いますが、これは30年前の僕の話です。

このあと僕は、家に1冊だけあるドラゴンボールを見るたび、人生で初めて嘘をついて親を騙そうとしたこの苦い経験を思い出しながら過ごしました。

親になった今、もしも自分の子どもが同じことをしたらどう感じるのでしょうか。

正直さに欠けるずるい行為として叱るべきなのかもしれません。

でもきっと、微笑ましさが勝って叱れないだろうな。

先のことを考えられず欲望に負けてしまった。その過ちを取り繕おうと必死に考えた。だけどお釣りのことまで頭が回らなかった。幼稚すぎて愛おしく思えるほどです。

まだ幼かった僕は、この経験を通して学んだことがあります。
それは嘘をついてもすぐにバレるということや、バレたときの気まずさです。

母親も、このことで僕のことを叱ったりはしませんでした。
どういう表情をしていたのかは覚えていないのですが、たぶんきっと、今の僕と同じ気持ちだったんでしょう。

改めて、親になって初めて気づくことってたくさんあるんだなぁと感じます。

僕が中学生、高校生、大学生だったあのときに親が考えていたことを、これからは僕が子育てをすることで感じることができるのかな。

そんな風に考えると、子育ての違った楽しみ方が見えてワクワクするのでした。

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